(令和4年5月17日更新)
本記事は不動産の買付証明書について解説しています。
不動産の購入にはさまざまな手順を踏む必要がありますが、買付証明書もその中の一つです。
今回は、不動産における買付証明書の必要性や、効力などについてご紹介していきます。
注意点についても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
■不動産の買付証明書とは?
買付証明書とは、不動産売買契約前における、不動産購入の意思表示を伝える書面です。
気に入った不動産を見つけた際に、即座に売買契約をすることは一般的ではなく、主に以下の内容を売主に伝えるために買付証明書に署名押印して提出します。
1.不動産を購入したい旨
2.不動産の表示(購入したい物件の詳細)
3.購入価格(価格交渉なども含めた金額)
4.手付金の額
5.融資利用の有無(支払い方法は住宅ローンや現金か)
6.契約希望日
7.引き渡し希望日
8.その他(上記以外の希望や条件がある場合)
上記が主な記載内容となりますが、買付証明書には決まった書式はありません。
そのため、書式によっては買主の勤務先や年収も記入する場合もあります。
また「買付証明書」という名称にも特に決まりはなく、例えば「購入申込書」や「買付申込書」などと題される書式もありますが、意思表示という点において意味は同じです。
不動産の購入意思を、口頭ではなく書面によって、仲介業者および売主に明確に伝えるのが買付証明書の意義といえます。
■不動産の買付証明書の効力は?
法的な効力はない
不動産における買付証明書に、法的な効力はありません。
さらにいえば、買付証明書を売主に提出する義務も特にないため、買付証明書の提出は「決まり」ではなく「慣習」といえます。
そのため、買付証明書を売主に提出したとしても、買主はその内容を撤回することができ、逆に売主はその買付証明書を受けなければならない義務もありません。
とはいえ、買付証明書を提出することで、不動産売買契約の準備がしやすいことは事実です。
買付証明書に法的な効力はありませんが、少なくとも口頭の意思表示よりは買付証明書の方が、売主および仲介業者は安心して契約を進めることができるでしょう。
手付金と申込金の違い
買付証明書の署名押印と同時に「申込金」を受領する慣習もありますが、預り金は不動産売買契約における「手付金」とは意味合いが違います。
申込金とは買付証明書の内容に、より信憑性を持たせるために、買付証明書に併せて納めるお金です。
申込金は買付証明書同様、その支払い義務自体も本来はありません。
そのため、申込みを撤回すれば即座に返金されるお金であり、売買契約が成立した場合でも一旦返金されるか、そのまま手付金の一部にできます。
あくまでも買付証明書に添付する、売買契約の予約金ともいえるでしょう。
一方、手付金とは売買契約の証として、売買代金の一部に充当される契約金を指します。
手付金は宅建業法上その効力が保証されており、買主が手付金を支払い、売主が受け取った段階で売買契約が成立します。
そのため、買主の一方的な事情で契約を撤回する場合には、支払った手付金を放棄しなければなりません。
反対に売主の都合で契約を撤回する場合は、手付金の2倍の金額を買主に支払う必要があります。
したがって申込金と手付金は、その意味や効力は全く違うといえます。
1番手としての交渉権
買付証明書は前述のとおり法的な効力を持ちませんが、一番手として交渉を打診する上では必要な書類です。
口頭ではなく、書面で意思表示を受け取った売主は、道義的にも1番手として検討せざるを得ないといえるでしょう。
しかし、買付証明書を受け取った順番によって1番手、2番手としなければならない決まりはなく、どちらかといえばこれも一つの慣習です。
とはいえ、明確に内容を記した買付証明書を、申込金とともに1番に提出する買主に対して、1番手として交渉しない理由はないでしょう。
したがって、買付証明書は1番手としての交渉権を得るために必要といえます。
スムーズな契約のために必要
買付証明書は、その後の不動産売買契約をスムーズに行うためにも必要といえるでしょう。
売買契約前に契約内容を書面で明確にしておくことで、誤解などのトラブルを防ぐことができます。
逆に、買付証明書による契約内容の確認をせずに売買契約に臨んだ場合、確認不足による認識の違いから、せっかくの売買契約が成立しなくなる可能性もゼロではありません。
したがって買付証明書は、売買契約における内容調整の役割も担っているといえるでしょう。
■不動産の買付証明書における注意点
次は、不動産の買付証明書についての注意点についてご紹介します。
不動産購入は縁起も大切なため、売買に関わる全ての人にとって良い取引にしたいものです。
注意点を知っておくことで、不動産購入の想定外トラブルに巻き込まれないようにしましょう。
契約を約束するものではない
買付証明書=売買契約ではありません。
・価格交渉込みの1番手で申し込んだが、2番手が満額申し込みだった
・融資利用ありの1番手で申し込んだが、2番手が現金取引だった
・売主の一方的な都合で売却しないことになった
上記のような理由によって、買付証明書を提出しても契約が成立しないこともあるため、提出前に現在の状況をよく聞き取りした上で、進めるようにしましょう。
前述のように買付証明書には法的な効力はないため、さまざまな理由によって契約が成立しないこともあります。
安易に買付証明書を出さない
安易な気持ちで買付証明書を出さないように注意しましょう。
買付証明書には法的拘束力はないため、簡単に撤回することができますが、不動産取引はあくまでも信頼関係のもとに成り立っていることをよく考えるべきです。
理由にもよりますが、一度提出した買付証明書を撤回することは、売主および仲介業者からの信頼を失う覚悟が必要といえます。
信頼を失うだけならまだ良いですが、買付証明書を撤回したことによって、売主に多大な損害が及んでしまった場合、売主から損害賠償請求される可能性もゼロではありません。
そのため、買付証明書を出すからには、条件が整い次第必ず売買契約をする、という固い意思を持つことが重要です。
買付証明書の有効期限
買付証明書の有効期限は、一般的には1週間から10日前後です。
買付証明書の有効期限について明確な決まりはありませんが、売買契約前の交渉という意味合いからも、あまり長く設定することは望ましくないでしょう。
売主からすれば他の商談機会を失う可能性があり、買主からすれば他の候補物件の購入機会を失う可能性があります。
そのため双方に不利益がないよう、できれば1週間以内にスピーディーに交渉を決着させることがおすすめといえるでしょう。
預り金のトラブルに注意
預り金の相場は1万円から10万円前後が一般的ですが、支払いおよび返金に際してのトラブルには注意しましょう。
預り金は、買付証明の撤回の際には速やかに返金されるのか?
支払った預り金は不動産仲介会社に正式に受け取られているのか?などの確認が必要です。
例えば、買付証明を買主の一方的な都合で撤回した場合には、預り金は返金されないなどの記述がある書面に押印させられるケースがまれにあります。
もちろんそんな話は通りませんが、もし返金の際に上記のような内容を主張された場合、非常に気分を害することになるため、事前に書面内容を確認しましょう。
また、支払った預り金が営業マンの懐に入り、その営業マンが退職して音信不通になるケースもまれにあります。
基本的には「預り証」を受領していれば、上記のことがあっても会社に補償を求めることができますが、こちらも非常に気分が悪いです。
最低限の対策として、預り金の受け渡しは不動産仲介会社の事務所で行いましょう。
■まとめ
ここまで、不動産の買付証明書について解説してきました。
【本記事のまとめ】
買付証明書に法的な効力はないが、売買契約の調整として必要
買付証明書=売買契約ではないため、成立しないこともある
買付証明書は簡単に出さず、売買契約と同様に考えて出す