(令和4年5月5日更新)
本記事では任意売却と競売の違いについて解説しています。
一身上の理由により、所有する不動産を維持することが難しくなったり、残債務などの関係で、容易に売却もできない事態に見舞われる場合があります。
そんな状況における選択肢として、「任意売却」や「競売」があります。
これらは一体どのような流れで進んでいくのでしょうか?
本記事を通して、任意売却と競売の違いや流れ、注意点などについても知っておきましょう。
■任意売却と競売の違い
任意売却とは
任意売却は、不動産を売却しても債務(住宅ローンなど)が残ってしまうという点以外は、基本的に通常の不動産売却と同じ流れです。
通常の不動産売却は、債務を完済できる金額または不足分を補える資金をもって売却を完了するのに対し、任意売却は債務の一部を残した状態で売却を完了させます。
つまり、債務が残る売却にもかかわらず、債権者に対して抵当権の抹消に同意してもらうわけです。
これには当然交渉が伴うため、任意売却は不動産会社に依頼する形が一般的です。
競売とは
不動産における競売とは、債権者が持つ抵当権を行使することにより、不動産を強制的に売却することです。
抵当権とは、わかりやすくいえば「担保不動産を競売にかけられる権利」ともいえます。
金融機関から融資(住宅ローン)を受けて不動産を購入するにあたって、金融機関はお金を貸す見返りとして抵当権を設定して担保にとります。
融資の完済と同時に抵当権の登記は抹消されますが、逆に言えば完済までの間は、金融機関に抵当権という名の「保険」をかけられているような状態です。
任意売却は不動産会社に依頼しますが、競売は債権者が裁判所に申し立てることによって行なわれます。
任意売却と競売の違いを比較
任意売却と競売のおおまかな違いについては前述のとおりですが、ここではさらに細かい違いについて解説します。
【任意売却と競売の違い】
任意売却 | 競売 | |
プライバシー性 | 近隣に知られずに売却可能 | 裁判所(インターネット)に公告される |
売却価格 | 市場価格に近い価格で売れる傾向 | 市場価格の7~8割の傾向 |
引き渡し | 通常売却同様、比較的融通が利く | 開札後速やかに退去が必要 |
持ち出し費用 | 引越代など売却金額から捻出可能 | 引越費用などは全て実費負担 |
残債 | 残る | 残る(競売申立費用なども加算) |
売却後の返済 | 債権者と相談して返済 | 給与など差押えの可能性もあり |
上記の表から、任意売却よりも競売の方が比較的条件が悪いことがわかります。
それもそのはずで、任意売却とは競売の一歩手前の「救済」に近い手段で、競売は万策尽きた最終手段ともいえるためです。
次は、任意売却から競売に至る流れを解説します。
■任意売却の流れ
住宅ローンの返済が滞る
家庭の様々な事情により、住宅ローンの返済に遅れが生じるようになります。
ひと月分の遅れなどであれば大事には至りませんが、返済遅延が連続して起こるようになると、次の段階へと移ります。
督促状・催告状が届く
金融機関から督促状や催告書が届くようになります。
このような書面が届く時点で、すでに住宅ローンの返済はストップしていることが一般的です。
期限の利益喪失通知が届く
期限の利益とは「債務を分割で返済する権利」で、ここまでの住宅ローンの支払い停止期間の目安は約6ヵ月です。
つまり、「あなたは借りたお金を分割で支払う権利を失ったので、一括で返済してください」という通知です。
期限の利益喪失の理由は、当然ながら「返済の不能」です。
これは、金融機関との金銭消費貸借契約(お金を借りる契約)の一般的な条項として記載されています。
期限の利益喪失によって分割払いの権利を失い、それまで受けていた金利優遇(金利の割引特典)も無くなります。
この段階で、何らかの形で対象の不動産を早急に売却しなければいけません。
代位弁済通知が届く
代位弁済とは、債務者に代わり債権者に第三者が債務を返済することです。
つまり、債務を保証している保証会社(一般的には銀行の子会社)が、金融機関に代わって完済し、その債権を得たという通知です。
住宅ローンを組む際の諸費用の中に「保証料」という項目があり、これが上記保証会社に支払っている費用です。
これを原資に、保証会社が貸し倒れなどの債務を引き受けるという仕組みです。
代位弁済通知が届いた段階で金融機関の手は離れ、上記保証会社とのやり取りをすることとなります。
任意売却の開始
ここからが任意売却を具体的に進めていくタイミングとなります。
代位弁済通知後、保証会社はすぐさま競売の申し立てを裁判所へ行うため、この申し立てから入札~開札までが、任意売却の期間です。
なお、期間の目安は一概にはいえませんが、約6ヵ月間が平均といえます。
この期間が任意売却のリミットと考えましょう。
■競売の流れ
次は競売の流れについて解説します。
競売開始決定通知が届く
債権者(抵当権者)が申し立てた競売申立てが受理され、競売が開始されるという通知です。
正式な受理に基づき、裁判所は競売の手続きを進めていきます。
執行官による自宅訪問
対象の不動産へ、裁判所から派遣された執行官が訪問します。
物件の現地調査および物件を撮影して「調査書」を作成するためです。
期間入札~開札
期間入札が始まります。
一定の期間内に入札者を募り、期間終了後に開札が行われることとなり、この段階が任意売却期間終了のタイミングといえます。
代金支払い~立ち退き
落札者による代金支払いが完了し、裁判所が所有権移転登記を申請します。
この時点で、自宅は正式に第三者の手に渡りました。
そして、引っ越しが完了していない居住者(前所有者)は「占有者」という扱いになります。
つまり、速やかに明け渡さなければいけない状況です。
引っ越し費用も出ないため、この段階までに費用を捻出しておく必要があります。
明け渡しに際して、裁判所による「強制執行」が行われる場合もあるため注意が必要です。
■任意売却と競売の注意点
次は任意売却と競売における注意点について解説します。
借金はなくならない
任意売却および競売が終了しても、債務が消えるわけではありません。
どちらの売却も債務を完済するに至っていない場合には、残りの債務について返済する義務を負います。
特に競売においては「競売申立費用」も負担する必要があります。
つまり、競売で返済しきれなかった債務に上乗せされてしまう費用です。
費用の目安は債権額や申立ての種類により異なりますが、約80~200万円と高額で、まさに弱り目に祟り目といえます。
一方の任意売却については、通常の不動産売却がベースとなっているため、競売のような特殊な費用負担はありません。
また、返済しきれなかった債務が残る点においては同じですが、余分な費用がない上、競売よりも高く売れる傾向にあります。
任意売却にはリミットがある
前述のとおり、任意売却にはリミットがあります。
それは代位弁済通知から開札までの約6ヵ月です。
ところで、代位弁済通知までの約6ヵ月の間(返済ストップ期間)に任意売却は行えないのでしょうか?
答えは「NO」です。
なぜなら、代位弁済通知までの支払い停止期間では、債権者は任意売却の交渉には応じてくれないからです。
期限の利益喪失~代位弁済通知という手順を経て、いよいよ債権者と任意売却の協議ができるようになります。
したがって、任意売却が行える期間を目一杯使えるよう、代位弁済通知前には不動産会社と打ち合わせを始めるようにしましょう。
売却金額を決める権限はない
任意売却および競売の売却価格を決める権限は、債務者にはありません。
任意売却価格は債権者によって決定され、競売価格は入札による開札金額によって決定されるためです。
つまり、売却後の残債務をコントロールすることはできないといえます。
連帯保証人等がいる場合には同意が必要
任意売却は、その債務において連帯保証人などがいる場合、売却の同意を得る必要があります。
任意売却で無事に話がまとまったとしても、連帯保証人等の同意が得られなければ売却することはできません。
そのため、任意売却を検討する前に必ず連帯保証人等に連絡・相談しておくようにしましょう。
■任意売却や競売を防ぐには?
任意売却や競売にならないようにするためのポイントは一つ。
「過剰な債務は負わない」ことです。
住宅ローンの返済額はもちろん、車のローンやカードローン、リボ払いなどは、それぞれ単体で見れば決して大きな支払いではありません。
ですが、これらが積み重なり、やがて大きな返済額となって月々の支出を圧迫します。
そこに様々な事情が相まって、住宅ローンの返済不能となる経緯があります。
住宅購入には夢があり、良い家に住みたい願望は誰にでもあるでしょう。
ただ、住宅ローンによる住宅購入は「資産」を手にすると同時に「負債」を負うことも忘れてはいけません。
任意売却や競売は、精神的なショックや経済的な損失が大きいことも事実です。
しかし任意売却や競売は、決して人生の後退でも何でもなく、むしろ今後を楽しく生きるための正常化と考えるべきです。
大きな荷物を下ろすことによって見える景色も変わります。
■まとめ
ここまで、任意売却と競売の違いや注意点について解説してきました。
【本記事のまとめ】
任意売却は競売の一歩手前の「救済」ともいえる手段
任意売却は引越費用などが捻出できる場合がある
競売情報は公開されるが任意売却は知られずに売却できる
競売も任意売却も債務がゼロになるわけではない
任意売却はリミットがあるため早めに検討する
競売も任意売却も人生のリスタートと捉える