【令和5年改正】所有者不明土地の対策?成立した3つの法律を解説

【令和5年改正】所有者不明土地の対策?成立した3つの法律を解説

(令和4年5月13日更新)

現在、日本国中で「所有者不明土地」が問題となっています。

所有者不明土地とは、不動産登記簿を確認しても所有者がわからず、所有者がどこに住んでいるのかもわからず、連絡もとれない土地のことです。

相続登記がされずに放置されていることが一番の原因なのですが、ついにこの問題における法改正がなされることになりました。

今回は、所有者不明土地の問題点をはじめ、同問題の解消のために可決された3つの法案について解説していきます。


■所有者不明土地の問題点

はじめに、所有者不明土地の問題点について3点解説します。

上記を解説の前に、まずは平成28年国土交通省調べによる所有者不明土地の状況についてご紹介しましょう。


・所有者不明土地は全国面積約410万haに相当(九州の土地面積は368万ha)


・所有者不明土地は国土全体の20%に相当する


・2040年には北海道に匹敵する面積になると予想


~国土交通省「所有者不明土地の実態把握の状況について」より抜粋~https://www.mlit.go.jp/common/001201304.pdf

ただでさえ国土の小さい日本にもかかわらず、上記ほどの広大な土地が所有者不明のまま放置されている現状は、到底放置できるものではないといえるでしょう。

上記の状況を知った上で、ここから所有者不明土地が起こす現実的な問題について解説していきます。


公共事業や災害復興の妨げ

所有者不明土地は、公共事業や災害復興の大きな障害となります。

公共事業とは、学校・公園・病院などの建設や、道路・上下水などの整備などが挙げられますが、これらを行うにあたって対象の土地所有者へ、用地取得の交渉が必要となる場合があります。

例えば道路を拡張するにあたって、その道路拡張範囲にあたる土地の所有者に、土地を売ってもらうよう話し合いをしなければならないのですが、所有者不明土地の場合にはそれができません。

また、所有者を特定する作業には多大な労力を要することから、事業が円滑に進まないばかりか、余分なコストがかかる要因にもなります。

災害復興においては、2011年3月11日の東日本大震災における仮説住宅の建設時に起こった問題が代表的です。

所有者不明土地によって復興事業の用地取得が難航し、本来の用地目標の48%しか達成できなかったという経緯があります。

その後、東日本大震災復興特別区域法を改正し「土地収用法」の緩和をしたものの、改正されたのは2014年4月末、すでに震災から3年以上経過していました。

上記により、所有者不明土地問題は表面化し、喫緊の課題であるとの認識が広まるきっかけとなったのです。


近隣住民への悪影響

所有者不明土地は、近隣住民への悪影響になることもあります。

例えば建物の老朽化が挙げられ、雨や強風などにより建物の一部が欠けて近隣の住宅に及ぶ被害は代表的な問題です。

さらに、老朽化した放置建物には不法投棄が増える要因にもなり、更地の場合においても草木などが未整備の状態になるなど、近隣にとっては迷惑以外の何でもありません。

このような管理不全状態の土地は、住宅地全体の美観を損ねるだけでなく、防犯面でも不安要素が多いといえることから、近隣住民にとって大きな悩みの種となっています。


売却や賃貸が困難

所有者不明土地は、売却または賃貸が困難な状態にあります。

売却や賃貸の話をまとめるにあたり、所有者を特定する作業から始めなければならないことから、非常に時間もかかり、特別な理由でもない限りそれ以上進めようとは思わないでしょう。

また、所有者不明により放置される期間が長くなるほど、相続により人知れず対象者がねずみ算式に増えていくため、共有者が増えることによりますます特定ができなくなる可能性が高まります。

上記のことから「散々時間をかけて調べたが、結局所有者がわからなかった」という事態になるぐらいならいっそ放置しよう、となるのは自然の流れといえるでしょう。


■所有者不明土地対策における3つの法律


ここまで、所有者不明土地の問題についてご紹介してきましたが、次は本題の「対策」について解説します。

平成29年度の国土交通省調べによると、所有者不明土地の割合について以下のように結論付けました。

①相続登記未了の土地 66%

「文字通り、所有者死亡により相続が必要な土地にも関わらず相続手続きをせず放置状態にある土地」


②住所変更登記未了の土地 34%

「所有者の現住所を登記する必要があるが、その登記をしていないため住所の沿革が取れず、所有者がどこに住んでいるかがわからない土地」

~国土交通省ホームページより抜粋~

上記の調査および前述の問題点をもとに、政府は以下3点の法律改正・創設を行うことになりました。


不動産登記法の改正

1点目は「不動産登記法」の改正です。

不動産登記法の改正点は3つです。

不動産登記法の改正点

①相続登記申請の義務化

②登記名義人死亡などの事実の公示

③住所変更登記の義務化



①相続登記申請の義務化

これまで相続登記の義務はありませんでしたが、本改正により義務化されます。

具体的には、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記することを義務付けるというものです。

上記登記義務において、正当な理由もなく申請漏れがあった場合には過料の罰則もあります。

本改正と同時に、登記手続きにかかる税金(登録免許税)の負担や、相続が必要な不動産が一覧できる証明の新設、自治体による啓発要請などのサポート体制があり、対象者に対するインセンティブにも配慮がなされているといえるでしょう。


②登記名義人死亡などの事実の公示

これまで、登記名義人の存命状況などを容易に確認することはできませんでしたが、本改正により登記官が職権で、その状況が把握できるようになります。

住基ネットなどから死亡情報を取得することにより、登記官の職権によってその情報を登記に表示できることから、所有者の状況確認が容易になりました。


③住所変更登記の義務化

住所変更登記においても、これまでは義務がありませんでしたが、本改正によって義務付けられることになりました。

登記名義人に対し、住所の変更日から2年以内に変更登記することを義務付け、こちらも正当な理由がない場合には過料の罰則規定があります。

上記改正により、沿革の取れない所有者への一定の対策に期待ができるでしょう。


民法の一部を改正

所有者不明土地対策においては、民法の改正も対象となっています。

民法の一部改正点

①相隣関係規定の見直し

②相続制度の見直し

③共有制度の見直し

④財産管理制度の見直し



①相隣関係規定の見直し

ライフライン(上下水管やガス管)を道路から自分の土地に引き込む場合、対象の道路が私道の場合、私道路の所有者に同意を得る必要があります。

これまで、道路所有者不明の状態だと、同意が得られずライフラインの引き込みができないケースがありましたが、本改正によって所有者不明の状態でも対応ができる仕組みが創設される見込みです。

上記により、建築におけるライフライン整備のトラブルを防止しやすくなるでしょう。


②相続制度の見直し

所有者不明土地が長期間放置されるほど、相続により土地の共有者が増えて複雑化する場合において、本改正により一定期間経過後の相続利益を消滅させることができます。

具体的には、相続開始から10年を経過したときは、法定相続分の利益を消滅させることで遺産相続を簡略化できる仕組みを創設します。


③共有制度の見直し

土地に不明共有者がいる場合、土地利用や意思決定ができないケースにおいて、本改正により裁判所を関与させることで不明共有者に公告ができるようになります。

公告によって、不明共有者の持分の価額に相当する金銭を裁判所に供託し、その不明共有者の持分を取得することで、不明共有者との共有関係を解消できる仕組みです。

上記により、不明共有者が原因による土地利用がスムーズになるでしょう。


④財産管理制度の見直し

不明者財産の管理は、人単位での管理が必要なため、非効率かつ管理が甘いことで危険な状態になることもありましたが、本改正により見直されます。

財産管理制度なるものを裁判所の管理命令により発令し、管理不備によって財産が脅かされる可能性を防止する目的です。

所有者不明土地における管理不全状態を、本改正によって適切に管理できるようになるでしょう。


相続土地国庫帰属法の創設

所有者不明土地対策として「相続土地国庫帰属法」が創設されます。

本法の目的

・土地を相続したが、手放したい人が増加

・望まぬ相続によって、土地の維持管理が負担

本法によって、上記所有者の土地を国庫に帰属、つまり国に土地を寄附することができます。

ただし、帰属には一定の要件があるため確認が必要です。

例えば、土地の管理を放置したことで起こる可能性のあるトラブルを国へ転嫁しようとしている可能性がある場合などは、法務大臣の審査が通らないこともあります。

また、国庫帰属するための費用負担がある点も注意です。

費用は10年分の管理費用とされており、原野(適当な管理でよい土地)で約20万円、市街地の宅地(200㎡)で約80万円が目安です。


■所有者不明土地に関するよくある質問


ここまで、所有者不明土地における問題や法改正について解説してきました。


次は所有者不明土地に関するよくある質問についてまとめてみましたので、ご参考ください。


法改正はいつから?


各法案の施行日

・不動産登記法改正
 令和6年4月1日~


・民法改正
 令和5年4月1日~


・相続土地国庫帰属法
 令和5年4月27日~


上記は令和3年4月28日公布にされているため、いわば決定事項になります。

令和5~6年にかけて、順次施行される予定です。


法改正によって他に何が良くなる?

所有者不明土地における法改正によって、不動産売買の活性化も期待できるでしょう。

前述のように、平成28年時点でさえ九州より大きい面積の土地が所有者不明土地であることが判明しています。

このことからも、そのすべてではないとしても、今まで眠っていた土地の売買が行われることは確実といえます。

利用価値のある土地が否かは別として、単純に物量が増えることに一定の期待ができますが、土地下落の要因になる可能性もゼロではないかもしれません。

したがって、今後の動向に注目です。


所有者不明土地の税金は誰が払う?

不動産の維持費としてかかる税金は「固定資産税」ですが、現行においては課税ができていないケースもあります。

令和2年度の税制改正によって、所有者不明でも土地の使用者に対して課税できるようになったことから、以前よりも税金の徴収はしやすくなりました。

とはいえ、使用者もいない所有者不明土地や、所有者不明土地を賃借している人が居住を継続しているなどのケースでは、課税できていないのが現状です。

したがって今回の法改正によって、各自治体の税収は上がる可能性が高いといえるでしょう。


法改正によるデメリットは?

前述のように、相続人であるにもかかわらず土地の相続を希望していない人にとっては、法改正はデメリットでしかないでしょう。

とはいえ、上記のような人は法的な義務はないにしろ道義的な責任を放棄していたともいえます。

そのため、本改正によって想定外のデメリットが噴出する可能性はゼロではないにしろ、大枠としては非常に意義のある改正だと筆者は考えます。


■まとめ

今回は「所有者不明土地」についてご紹介してきました。

本記事をお読みいただいた方にとって、ご参考になれば幸いです。

【本記事のまとめ】
・法改正により、九州を超える面積の土地が活性化

・相続義務化で、独占業務の司法書士は仕事倍増?

・放置土地の活性化と税収増の両立が期待できる

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